今年度の実践紹介③ 実践の構想



 

 では、先にお見せした動画に至る、本実践の構想について、下記の資料でお知らせします。

(体裁がうまく整えられず、少し読みづらくなっています。申し訳ございません。)
 
 



「情報を生かす日本の産業」
― 提案しよう! 熊本市観光PR動画 ―                授業者 平川 純哉                                

1 本実践の主張
                                                         ⑴「情報活用」に対する子どもの捉え
                                                            高学年になると子どもたちは社会の出来事や身の回りのことなどへの関心も広がってくる。社会 の出来事に対しては,新聞やテレビ・インターネットなどメディアから得た情報について,「○○ で地震が起きていたよ」「○○チームが勝ったね」など話題にしている。また,自分に身近なこと についても,多くなった知識量や語彙力を用い会話や手紙などで情報発信を行っている。 情報を伝えたり聞いたりしながらコミュニケーションを楽しむ子どもたち。しかし,その中で気 になるのは,学校での生活を行う中で「受け取る相手がどう思うか」ということにまで行き届かな いままに,自分の一方的な印象や感情にのみ依拠した情報発信があることである。特に5年生のこ の時期に多いのは,事実でないことにもかかわらず自分が感じた印象から「きみは〇〇さんが好き なんでしょ」と冷やかしたり,「○○さんって~だよね」と本人が落ち込むような内容を何気なく 話したりしてしまうことなどである。 SNS が発展した高度情報化社会である現代は,誰もが情報発信・拡散の主体となり得る社会であ り,そのため,このような子どもたちがそう遠くない将来,無意識に「うわさ」や「誤情報」を広 げてしまうこともあり得る(実際には子どもに限ったことでなく我々大人も同様である)。 これから社会を生き抜く子どもたちには,自分が情報発信の主体となることを自覚するとともに, 情報の発信と受信が密接に関わっていることを捉えた上で,情報発信を行う力を身に付けてほしい。
  そのために社会科としては,単に知識を習得させるのではなく,「情報の広がりにはどのような 特徴があるのか」や「情報とどのように向き合うか」などについて子どもが多角的に捉えようとす る学びの構築が必要である。
                                                                                                                                                      ⑵ 新学習指導要領との関係から
    本単元の事例の選択にあたっては,指導要領には,情報化社会の「よさ」のみならず「課題」についても子どもが考えをまとめることが できるように留意することが述べられている。これは子どもに身に付けさせたい資質・能力の観点 から言えば当然と言える。しかし,実際に行われている授業は「サービスや利便性の向上」に終始 したり,それに「その仕組み」が加わったりした程度のものがほとんどである。例えば,コンビニ エンスストアがプリペイド式カードの利用を消費者に促す理由について調べさせ,店側は記録され る顧客情報を物流や販売に生かしていること,それによって消費者は買いたいものが手に入りやす くなることを捉えさせるといったものである。このような学習の場合,子どもたちに「よさ」を気 付かせることはできても,主体的な学びの中で「課題」にまで目を向けさせる単元にすることは簡 単ではない。実際にはこの事例では,「個人情報流失の恐れ」などの課題があるのだが,それは子 どもにとって「(ほぼ)どうすることもできない」ことである。仮に教師側がその課題を紹介して, 「私たちにできることは何だと思いますか?」と問うたところで,子どもは「気をつけます」と答 えるのが精一杯である。つまり,「よさ」を中心とした追究では,子どもの文脈的なつながりを保 って「課題」に目を向けさせることが難しいのである。そもそも子どもたちは,サービスの向上や 利便性は日常生活の中で直接的にも間接的にも触れている。そのような点を考えたときに,この単 元では問題解決を図りながら情報化社会の「よさ」も「課題」も捉えられる事例を選定し,「情報 活用を通じて産業と国民生活とのつながりを子どもが多角的に考えることができる」ようにするこ とが有効と考える。
 
 ⑶ 教材について                                                
 そこで本実践では,「災害被災地における観光業の発展に向けた情報活用」を中心教材として取 り扱う。それは,以下のような理由によるものである。  近年,社会の多様化,情報化が進む中で,国内における観光(旅行)のスタイルも変化している。 簡潔に言えば,「団体旅行から個人旅行へ」「決まったところに行く旅行から,自分で行くところ を決める旅行へ」といった変化である。消費者はインターネットやSNSによって情報を収集した り旅行の手続きを行ったりしている。一方で観光地もそのような変化の状況を捉え,SNSを利用 した情報発信を行うようになっている。その発信はこれまでホームページやブログを使ったものが 主であるが,2015年ころから動画での発信も増え始め,今では毎年700~1000本の観光 PR動画が発信されている。 観光PR動画は,静止画以上に素材を魅力的・印象的にPRできるという「よさ」があるために 現在多数発信されているが,その内容によっては,批判を受けたり費用に対して効果が見られなかっ たりと「課題」も挙がっている。中でも特にそのような「課題」に陥りやすいのが「災害被災地」 である。災害被災地やその周辺では,災害やいわゆる「風評」によって観光客が減ってしまう事案 が起こっている。東日本大震災時の東北,熊本地震の九州,そして今年の西日本豪雨を受けての瀬 戸内・四国の各観光地ではいずれも観光客減少が起きている。そして情報発信の仕方や内容によっ ては,かえって「風評被害」を広げてしまう危険性を伴っているのである。しかしながら,このよ うな情報活用の「よさ」と「課題」が内在するからこそ,子どもにとって学びがいのある教材とな り得る。そこで次のような願いを持ち,単元構想を行っていく。

〇 情報化社会においては,情報発信の方法や内容によって産業の発展や課題克服につなが ることを多角的な考察から捉えてほしい。                                     〇 情報を通じた自分と社会との関わり方を受信・発信両者の立場から多角的に考えること を通して,情報発信を自分と相手の両方を考えて行おうとする人間性を身につけてほしい。

2 具体的な取り組み                                                ⑴ 子どもが主体的に社会と関わりを深めていくための単元構成 子どもの学びを主体的なものにするために,本実践では単元を次のように構想していく。  まず,今回の学習が産業における情報活用,特にインターネットの活用を学ぶことを紹介し,子 どもたちに自分たちの経験を踏まえた「インターネットの利点(よさ)」について想起させる。子 どもたちは「分からないことがすぐに分かる」「遠く離れていても交流できる」「表現を全世界に 発信できる」など,情報伝達の「速さ」「広さ」「双方向性」などに着目した利点を述べるであろ う。教科書掲載の事例にも触れ,それらの気づきが妥当であると捉えさせ,さらに観光でも観光地 のPRとして用いられていることを紹介する。その一例として,まず「沖縄県」の外国人向け観光 PR動画(okinawa.io>okinawa-inbaound-videos)視聴する。この動画の前後で海外の旅行客が 165 %増加した事実を提示すると,この動画の効果について自分たちの気づきを出していくであろう(※ 現在はシリーズ第二弾発信中のためそちらのアメリカ・シンガポール・中国バージョンを視聴)。沖 縄各地の名所やイベント・特産品などがきれいな映像で流され,旅の気分を誘っている様子を子ど もたちも感じるはずである。すると子どもたちは,「自分たちが住んでいる熊本の観光PR動画は どのようなものだろうか」と自然な疑問を思い浮かべたり内容を予想したりするであろう。その上 で県や市のホームぺージの検索をしてみる。すると,特に熊本市ホームページには観光PRの動画 がないという事実と出合う。「動画があった方がいいのになぜないのか,市役所の担当者に理由を 聞きたい」と,子どもたちは市役所にメールで尋ねる。後日,市役所の担当者から,「熊本地震の 影響がもう少し落ち着いた来年秋ごろに発信予定,今,内容を検討している段階なので,みんなの アイデアや動画の案をつくってほしい」と返事が来る。そこで,単元の「構想」に向かう次の主題 を設定する。

 「熊本市の観光PR動画を作って発信しよう。」

 上の主題を設定した後,自分たちの動画作成の参考にする目的で,「他の災害の被災地ではどの よう動画を作成しているか」を調べる。学級では,次の3つの動画を下の順番に視聴する。
 

1.熊本市と同規模で,かつ災害を経験した宮城県仙台市(仙台シティプロモーション2017):映像や音楽・字幕で仙台のイベント・名所・防災面でのアピール。


2.熊本地震で被害が大きい熊本県益城町(復光グラフィティ):益城町の自然や名所とともに,地震の被害や現在の復興について紹介。town.mashiki.ig.jp/kiji0032104/index.html

 

3.今回の中心事例大分県別府市(『別府温泉の男達』):風評被害に遭っている市の状況をユーモアも交えて紹介。           (www.gokuraku-jigoku-beppu.com)
 
それぞれ地震の扱い方が異なり,また,趣向を凝らしたものであるため,自分たちが制作する 動画では熊本地震をどのように扱うか迷ったり,意見が分かれたりするであろう。そこで,   

「熊本市のPR動画では「熊本地震」の扱いをどのようにすればいいのだろう。」
 
と,課題を設定する。この課題への追究の様子については視点2で述べる。この追究を通して観 光業における情報活用を多角的に捉えることができるようになり,さらには単元終末における熊 本市の PR 動画を「構想」する際の生きて働く知識になると考える。
 
















































































































































 









 

 

 
 

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